ガラスの棺 第36話 |
カグヤの指示の下、旧アヴァロンに攻め込んだ黒の騎士団の部隊は、一瞬で撃ち落とされ、海へと落ちていった。 「一体何が!?戦況はどうなってますの!?」 ブリタニア軍は動いていない。ゼロたちも動いていない。ジェレミアだけでは対処できないはず。ユーフェミアが部隊を引き連れているようには見えなかった。それなのに次々と機体が撃墜されていく。拡大された映像を確認すると、まるでアヴァロンを守るかのように青い光が飛び回るのが見えた。 「な!?なんですのこれは!?」 驚き声を上げた時、黒の騎士団のKMFを迎撃し終えた青い光は空中で動きを止めた。それは1騎のKMFだった。それも見覚えのある機体。 「・・・そ、そんな・・・まさか」 それは本来味方であるはずのKMF。 「なぜですか!?どうして神虎が!!」 黒の騎士団が誇る紅蓮聖天八極式に次ぐ性能を持つ神虎。 合衆国中華に常駐している黒の騎士団総司令黎星刻が騎乗する機体だった。 「カグヤ様!!」 オペレーターの一人が叫び、何もなかったはずの空を拡大していった。最初は豆粒大だった何かは次第に大きくなった時、緊急通信が割り込んできた。 そこに映しだされたのはカグヤの親友であり、中華連邦の代表蒋麗華だった。何時もは憂い顔を浮かべることの多い天子は、今は力強い表情でこちらを見つめていた。 「て、天子様!?」 カグヤの驚きに天子は反応を示すこと無く、儀礼的に挨拶をした。 『カグヤ様。合衆国中華は、これ以上貴方の独断を許しません』 「え?」 『すでに他の代表はこちらで抑えました。超合集国は元を正せばブリタニアと戦うために設立されたものではございますが、その後は世界平和のため、二度と戦争が起きないよう各国代表が争うこと無く対話できる場として存在していたはずです。存在しなければいけなかったはずです』 「それは当然ですわ。話し合いのテーブルに着くための」 『それならば何故、何時も喧嘩ばかりしていたのですか?私はあれを話し合いだとは思っておりません』 カグヤの言葉を切って捨て、天子は感情を込めずに事務的に言葉を紡いだ。だが、ポーカーフェイスを装おうとしてもその眉が寄っており、内心怒り心頭だというのが見て取れた。こんな天子は初めて見ると、カグヤは胸の内が冷たくなっていた。 『5年前、ゼロ様がどのような思いであのような事をなされたか、カグヤ様は知っていたはずではありませんか。それなのに、ご自身の罪を棚に上げ、争いの収集がつかなくなるまで罵り合い、ルルーシュ様のご遺体まで利用しようとする人非人な行為。更にはフレイヤに手を出すなんて。私はあなたを見損ないました』 ゼロを裏切り暗殺しようとしたこと。 フレイヤを持つシュナイゼルにつき、シャルルの時代を肯定したこと。 そして、ルルーシュが命を賭けて作り上げた平和な世界を、真実を知る者たちが壊そうとしていること。 こんな世界は間違っている。 彼らの崇高なる願いと尊い命を贄とし産まれたキセキのような平和を守るためには、腐りきった各国の代表達は邪魔だった。特に議長であるはずのカグヤ、扇、ナナリーは害悪でしかなかった。 ゼロには、返しきれない恩がある。 それを返すためにも機会を伺っていた。 そんな中で起きたこの騒動。 こちらの戦場に全員の意識が向いている間に、中華連邦は秘密裏に動き、愚かな代表たちの不正を暴き、各国に働きかけ代表を交代させ、カグヤに気づかれないよう中華連邦の駐在部隊を集結させていた。 ルルーシュとユーフェミアの登場は予想外ではあったが、完全にカグヤの意識はそちらに集中したため、こうして動くことが出来たのだ。 「そ、それは」 『合衆国中華はゼロ様に着きます。他の国々もゼロ様の元に集うでしょう』 天子がそう宣言すると、戦場にいた黒の騎士団のKMFは動きを鈍らせた。そもそも今回の戦闘は意味がわからなく、ゼロに対する攻撃、元ラウンズたちまで敵に回し、挙げ句の果てには死んだはずの虐殺皇女と悪逆皇帝まで姿を表した。それでも命令に従ったのは超合集国の議長の命令だから。だがここで超合集国が分裂を始めた。 『黒の騎士団に命じる。戦闘を停止せよ、繰り返す、戦闘を停止せよ』 全部隊に流れたその命令は、黒の騎士団総司令であり、神虎のパイロットである星刻の声だった。 『この後も、皇カグヤに加担する者は敵とみなす』 カグヤが騎士団を私物化して独断で動いていたことが知れ渡り、黒の騎士団のKMF達は武器を収め戦闘を終わらせた。 |